【喜怒哀楽のコーナー】 「喜びの記憶」 数年前、私が受験浪人生だった頃の話。 受験が完全にやんなっちゃった私は、たびたび塾をサボってマクドナルドに通っていた。 Twitterで「今マクドいる、来れる人来て」と呼びかけ、友達とおしゃべりをする日々。 空いているとはいえ、何時間も居座っているので、たびたび追加注文をしていた。 「コーラください」 「コーラですね、承りました…」 対応してくれたのは、いかにも新人バイトといったふうの女の子で、明らかに緊張していた。なんだか微笑ましい気持ちになりながら、友達と待っていた。 「○○番でお待ちのお客様〜…!」 はーいと返事をし、カウンターに行って言葉を失った。 コーラが、蓋のきわっきわまで、タップタプに入っている。 すごい。 こんなタプタプのコーラ、見たことがない。 入れ過ぎちゃったのだろうか。 新人バイトならではの、スーパーサービス商品である。 「お待たせいたしました、コーラで………」 新人バイトの女の子がそう言って差し出した瞬間、目の前で、コーラが180度回転した。 綺麗に、くるりとまわって、逆立ちをした。 呆気にとられる、バイトの女の子。と、私と友達。 カウンターには一滴もこぼれていない。 ただタプンタプンのコーラが勝手に、何かの力で、上下逆になって、誇らしげに立っていたのである。 「………!!申し訳ありません!!!作り直します!!!!」 呆然としている私たちを置いて、先に我に帰った新人バイトの女の子は、あたふたとコーラを入れ直した。 差し出される、新しいコーラ。 タプンタプンだ。蓋のきわっきわまで入っている。 これ、ミスとかじゃないんだ、たぶん。好意でこの量にしているんだ。 「あ……りがとうございます〜!」 なんとか言葉を絞り出して、タプンタプンのコーラをそっと机まで運んだ。 その後、新人バイトだった女の子は、だんだんと業務に慣れ、緊張が伝わってくることも無くなった。 そして、タプンタプンのコーラが作られることも、なくなった。規定量のコーラが、しっかりとした手つきで差し出される。 しかし、あの時の光景を、今でも忘れられない。 思い出すと、なんだか勇気が湧いてくるのだ。 これが私の、強い喜びの記憶である。 (2023/02/01)
こちらの配信で取り上げさせていただきました。